大判例

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東京地方裁判所 昭和40年(刑わ)1960号 判決

主文

1  被告人藤森を懲役二年六月に

被告人小山を懲役二年に

被告人出口、同中島、同上野同内田及び同荒木を各懲役一年に

被告人田村を懲役十月に

被告人町田及び同森を各懲役八月に

被告人浦部、同石島及び同斎藤を各懲役六月に

それぞれ処する。

2  ただし、本裁判確定の日から

被告人藤森及び同小山に対し各五年間

被告人出口、同中島、同上野同内田及び同荒木に対し各四年間

被告人浦部、同町田、同森、同田村及び同斎藤に対し各三年間

被告人石島に対し二年間

それぞれ右各刑の執行を猶予する。

3  押収物件中

洋服生地一着分(箱入り、昭和四十一年押第六十五号の二)を被告人上野から

同一着分(袋入り、同押号の三)を被告人出口から

背広一着(同押号の二十二)を被告人石島から

それぞれ没収する。

4  被告人出口から金六十五万円を

被告人田村から金五十万円を

被告人中島から金四十万七千円を

被告人上野及び同荒木から各金三十万円を

関被告人町田及び同森を各懲役八月に

被告人町田及び同森から各金二十万円を

被告人石島及び同斎藤から各金十万円を

それぞれ追徴する。

5  訴訟費用中、

証人松本文男及び同藤田孝子に支給した分はその二分の一宛を被告人藤森及び同小山の証人長野猪佐久に支給して分は被告人斎藤の

各負担とする。

理由

第一被告人等の経歴及び職務権限等

一、被告人藤森は、昭和五年頃上京して会社事務員となり、その後電線工場を経営して成功し、昭和二十四年東京都議会(以下、単に都議会と略称する)議員補欠選挙に当選したが、公民権停止の裁判確定により昭和二十五年七月頃失格し、昭和三十四年再び都議会議員に当選した者

二、被告人出口は明治大学を卒業し、アメリカ・ドイツに留学して体育学を研究し、明治大学教授、日本女子体育大学長等の教職及び各種体育団体役員を兼ね(本件発覚により全部辞職)、傍ら昭和二十二年以来都議会議員に連続当選していた者

三、被告人中島は農業に従事していたが、後、漬物業を営む会社を経営し、小平村会議員、同町会議員を経て、昭和二十二年以来引続き都議会議員に連続当選していた者

四、被告人浦部は福岡県福岡中学校卒業後上京し、早稲田大学専門部を中退し右翼政治団体に加入する等し、昭和二十六年都議会議員に当選し、昭和三十三年から昭和三十四年にかけて副議長を勤めた者

五、被告人石島は大正年間から呉服商を営み、昭和八年日本橋区会議員、昭和十二年東京市議会議員となり、昭和二十六年以来引続き都議会議員に連続当選していた者

六、被告人上野は昭和二年警視庁巡査となり、累進して管内各警察署長を歴任後昭和三十一年退職、昭和三十四年都議会議員に当選した者

七、被告人町田はタクシー会社役員をする傍ら昭和二十二年荒川区議会議員となり、昭和三十四年都議会議員に当選した者

八、被告人森は静岡県より上京して専修大学に学び東京市吏員となり、昭和二十一年会社経営に転じ、昭和二十四年都議会議員に当選した者

九、被告人斎藤は終戦前より荏原区会議員、東京市・府会、都議会議員等を歴任、昭和二十六年以来引続き都議会議員に連続当選していた者

十、被告人小山は東北帝国大学を卒業し、家業のパン製造販売業を営む傍ら、終戦前より下谷区会議員、都議会議員等を勤め、戦後公職追放となり、解除後昭和二十六年以来引続き都議会議員に連続当選していた者

十一、被告人内田は信用金庫、会社の役員等をし、昭和二十六年以来引続き都議会議員に連続当選し、昭和三十四年から昭和三十五年にかけて都議会議長の職にあつた者

十二、被告人田村は、養家の家業である農業に従事する一方、道路下水工事の請負を行い、壮年の頃一時博徒に交り国粋会に所属する等したが、昭和二十四年頃右請負業を会社組織に改め役員となり、昭和三十年都議会議員に当選した者

十三、被告人荒木は曾て元住吉会総長阿部重作の輩下となりその眷顧を受けたが、政界に転じ、昭和二十六年以来引続き都議会議員に連続当選していた者

である。被告人らは、いずれも昭和三十八年四月の都議会議員選挙に当選し、昭和四十年三月九日施行せられた都議会議長選挙当時都議会議員の職にあり、従つて地方自治法の規定により右議長選挙に際しこれを選挙する職務権限を有していたものである。

なお被告人らはいずれも自由民主党員であつて、都議会内おいては同党員議員で構成する「都議会自由民主党」なる会派(以下単に「自民党」又は「党」とあるのは、特に断らない限り会派である右都議会自由民主党を指称するものである。)に所属していた。

第二本件の背景

一、自民党内における都議会議長選挙の実情

地方自治法の規定によれば、都議会議長選挙は、単記無記名投票により行い、有効投票四分の一以上の最多得票者を以て当選人とするのを原則とし、議員全員の同意のある場合は指名推選により議長を選出するのであつて、議長の任期は議員としての任期による(同法第百三条、第百十八条)。

ところで、都議会に於ては、昭和三十年頃から前記自民党が絶対多数を占めていたので、同党議員が一致又はその殆んどが同一人に投票する限り、その支持する者が議長に当選することは確実であつた(後記の通り一時自民党が分裂したことはあつたが、その期間中は議長選挙は行われなかつた)。それ故、自民党に於ては、同党所属議員の投票を分散させないで議長を自党に確保するため、所属議員が本会議において議長として投票すべき者を以下のような手続によつて予め決定した上、議長選挙に臨んでいた。

同党内に議長就任を希望する者が一名だけであれば問題はないが、現実には議長の地位に伴う権限、栄誉、待遇その他政治的経済的利益の大であるところから、複数の議員が就任を希望するのが常態である。そこで、同党幹事長は一定期日を定めて議長就任希望者の届出をさせ、右届出の前後を通じ、幹事長等の党幹部が、議長候補者を一名にしぼるよう説得働きかけ、これが奏効することもあるが、かかる工作が行われないか、行われても結局不成功の場合には、同党所属議員全員で構成する議員総会において、前記届出た議長希望者について投票を行い、その投票の方法は、総会出席議員の単記無記名投票(但し欠席者は出席者に投票を委任できる)、有効投票の過半数を得た者を当選者とし、もし過半数得票者がないときは上位二名につき決選投票を行つて当選者を定め(本件でいわゆる党内選挙又は予備投票、予備選挙といわれているもの)、この当選者を以て自民党の推す議長候補者と決定した。(以上の投票による議長候補者決定を以下単に候補者選定と略称する)。

右候補者選定の結果は、もとより個々の自民党所属議員を法律的に拘束するものではないが、議員と所属党との関係及び議長を自民党に確保したい希望からして現実には議員の殆どが右選定の結果に従つて本会議における議長選挙の投票を行うのが一般であつた。従つて前記の通り絶対多数を占める自民党の推す議長候補者として選定された者は確実に議長に当選することができた(その唯一の例外は、昭和二十七年三月自民党の前身である東京都議会自由党の議長候補者選定における投票で、野口辰五郎議員が最多投票を得たに拘らず、投票で敗れた斎藤清亮議員を支持する一派が当時の自由党以外の他会派と結んだため、本会議における議長選挙で同人が当選した事例があるのみで、昭和三十年のいわゆる保守合同による自民党結成後はかかる例は絶無であつたばかりでなく、昭和四十年三月九日の本件選挙の場合にもかかる情勢はなかつた)。それ故右自民党の議長候補者選定における投票は、実質上の議長選挙と云つても過言ではなかつた。

そして右のような経過を経て当選した議長は、前記法定の任期に拘らず、就任後一年で辞任するのが、従来の慣行であつた。

二、昭和四十年三月九日施行の本件議長選挙前及びこれをめぐる党内情勢と同選挙の結果

自民党内には、以前からいくつかの派閥が存在したが、昭和三十六年の議長選挙の際、被告人内田、同田村等の一派が、自派の主張が容れられず、主として人事問題を主流派に専断されることに不満をもち、右各被告人等を中心として自民党議員約十数名が脱党し「都議会自民党」と称する別会派を結成した(通称これを分自党又は分け自民と云つた。)。右議長選挙で議長となつた建部順は、前記慣例に従わず、一年を経過しても辞任しなかつたので、自民党分裂中の議長選挙は行われなかつた。昭和三十八年四月施行の都議会議員選挙後、右分け自民党は自民党に合流復党したが、その後も事実上いわゆる分け自民派として依然一派閥を形成し、いわゆる主流派に対立していた。そしてその主流派の中にも前記建部順議員を中心とするグループ、村田宇之吉議員を中心とするグループがあつた。

右合流直後の同年六月の議長選挙に於ては、自民党内において、主流派の小山省二議員及び大久保重直議員並びに分け自民派の被告人小山が争う形勢であつたが、説得工作の結果、小山省二が議長候補者に決定され、議長選挙に当選した。次で同人が国会議員立候補のため辞任したので、同年十二月議長選挙が行われることになり、自民党内で前記大久保及び被告人小山が候補者選定を争つたが、結局被告人小山が辞退したため、議員総会では投票に至らず、右大久保が議長候補者と決定した。

以上の経過により、同月十四日右大久保が都議会議長に当選就任したのであるが、従来の慣例により同議長は、一年後の昭和三十九年十二月には辞任して次回の議長選挙が行われることが予想され(しかし、右大久保議長の辞任に伴い行うべき議長選挙は、実際には後記の通り昭和四十年三月九日施行された。以下これを本件議長選挙と略称する)、その際には前記経緯から被告人小山が議長選挙に出馬することが必至と見られていた。

しかるところ、昭和三十九年八月頃に至り、分け自民派の被告人小山に対抗すべく、主流派に於ては、副議長経験者である加藤好雄議員が主として前記村田宇之吉派の支持を得て、被告人藤森が主として前記建部順派の支持を得て、それぞれ本件選挙に当選したい希望を持ち、その頃からそれぞれ自己に支持を得べく運動を始め、候補者選定に於る被告人小山の過半数得票を阻もうとする形勢となつた。

これに対し被告人小山を支持する分け自民派としては、当時の自民党所属議員六十五名中十六、七名の少数であつたので、議長候補者選定において、過半数の三十三票を獲得して同被告人を当選させるためには自派以外の議員からも支持を得る必要があり、議長経験者である被告人内田を参謀格とし、分け自民派の議員が分担を定めて他の同僚自民党議員に働きかけて必勝を期していた。

大久保議長は前記の通り昭和三十九年十二月中に辞任する見込であつたので、自民党執行部では次期議長選挙に備え議長候補者決定のため、立候補届出の期限を同月五日と定めたところ、被告人小山及び同藤森並びに前記加藤好雄が届出た。しかし大久保議長の外遊中の発病、帰国遅延等の理由で議長選挙は延び延びとなり、翌昭和四十年三月九日に至り同議長が辞任したので、同日午前自民党議員総会が所属議員六一名出席(他に委任状提出の欠席者四名)して開かれ、前記候補者選定の投票を行つた結果、被告人小山が三十八票、加藤が十八票、被告人藤森が九票を獲得し、被告人小山が同党の推す議長候補者と決定し、引続き同日午後行われた都議会議長選挙では、同被告人が有効投票百二票中五十六票を得て当選し、都議会議長に就任した。

第三罪となるべき事実

被告人等は、いずれも前記第一記載のとおり都議会議員であつて、本件都議会議長選挙に際しこれを選挙する職務権限を有していたものであり、

一、被告人藤森は、本件議長選挙に当選したいと考えていた者であるが、

1  昭和三十九年九月下旬頃、東京都豊島区巣鴨六丁目千四百五十二番地料亭喜代仲に於て、当時都議会議員で都議会議員を選挙する職務を有していた前記建部順(昭和四十一年九月死亡)に対し本件議長選挙の際は、自己を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者として選出した上、都議会に於て議長に当選せしめるよう、建部は勿論、他の自民党所属議員にも勧誘尽力せられたい旨の請託をし、その報酬等として現金五十万円を供与し、

2  同年十月中旬頃同都足立区足立一丁目二十八番三号被告人上野方に於て、同被告人に対し、暗に本件議長選挙に際しては自己を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者として選出した上、都議会に於て議長に当選せしめられたい旨の請託をし、その報酬として同被告人の病気見舞の趣旨をも含め見舞金名下に現金十万円を供与し、

3  同年同月下旬頃、同都中央区日本橋蠣殻町二丁目七番地被告人石島方に於て、同被告人に対し暗に前同様の請託をし、その報酬及び同被告人の自民党政務調査会長就任祝の趣旨をも含め祝儀名下に現金十万円を供与し、

4  同年同月下旬頃、同都荒川区南千住町二丁目四十六番地被告人町田方に於て、同被告人に対し前同様の請託をし、その報酬として現金二十万円を供与し、

5  同年同月下旬頃同都千代田丸ノ内三丁目一番地東京都庁内都議会議会局議事部長室に於て被告人森に対し前同様の請託をし、その報酬として現金二十万円を供与し、

6  同年同月下旬頃、同都品川区二葉二丁目十五番二号被告人斎藤方に於て、同被告人に対し暗に前同様の請託をし、その報酬として同被告人の病気療養費の趣旨をも含め療養費名下に現金十万円を供与し、

7  同年同月末頃同都小平市花金井六丁目二十三番地被告人中島方に於て同被告人に対し前同様の請託をし、その報酬として現金二十万円を供与し、

8  被告人出口に対し

(一) 同年同月末頃同都杉並区西荻北二丁目九番七号同被告人方に於て、前同様の請託をし、その報酬として現金二十万円を供与し、

(二) 昭和四十年三月上旬頃、前同所に於て前同様の請託をし、その報酬として同被告人の出張先より帰京旅費名下に現金五万円を供与し、

9  昭和三十九年十一月三日頃、同都町田市本町田三千九百四番地高尾健一方に於て、都議会議員(自民党所属)で都議会議長を選挙する職務権限を有する同人に対し前同様の請託をし、その報酬として現金二十万円を提供し、

以てそれぞれ右建部、被告人上野、同石島、同町田、同森、同斎藤、同中島、同出口及び高尾の各職務に関して贈賄し

二、被告人小山は、本件議長選挙に当選して議長となつた者であるが、

1  被告人出口に対し、

(一) 同年九月下旬頃、前記同被告人方に於て、本件議長選挙に際しては自己を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者として選出した上、都議会に於て議長に当選せしめられたい旨の請託をし、その報酬として現金二十万円を供与し、

(二) 昭和四十年二月頃、前同所に於て同前様の請託をし、その報酬として洋服生地一着分(昭和四十一年押第六十五号の三、時価七千円相当)を供与し、

2  被告人上野に対し、

(一) 昭和三十九年十月上旬頃、前記同被告人方に於て暗に前同様の請託をし、その報酬として同被告人の病気見舞の趣旨をも含め見舞金名下に現金十万円を供与し、

(二) 同年十二月頃、前同所に於て前同様の請託をし、その報酬として洋服生地一着分(前同押号の二、時価七千円)相当を供与し、

3(一)  同年十一月頃、同都中野区駅前十五番地竹林秀雄方に於て、当時都議会議員(自民党所属)で都議会議長を選挙する職務権限を有していた同人に対し前同様の請託をし、その報酬として、

(二)  同年同月頃、同都品川区北品川二丁目九十四番地小野慶十方に於て、当時都議会議員(自民党所属)で前同様の職務権限を有していた同人に対し前同様の請託をし、その報酬とし

(三)  同年同月頃、同都練馬区下石神井二丁目千五十六番地大村仁道方に於て、当時都議会議員(自民党所属)として前同様の職務権限を有していた同人に対し前同様の請託をし、その報酬として

(四)  同年同月頃、同都荒川区南千住町六丁目百四十七番地佐々木恒司方に於て、都議会議員(自民党所属)で前同様の職務権限を有する同人に対し、前同様の請託をし、その報酬として

(五)  同年同月頃、同都千代田区神田多町二丁目十一番地山口虎夫方に於て都議会議員(自民党所属)で前同様の職務権限を有する同人に対し前同様の請託をし、その報酬として

(六)  同年同月頃、同都目黒区下目黒三丁目五百七十六番地岡田幸吉方に於て、当時都議会議員(自民党所属)で前同様の職務権限を有していた同人に対し、前同様の請託をし、その報酬として

(七)  同年十二月頃、同都大田区羽田二丁目六番一号松本鶴二方に於て当時都議会議員(自民党所属)で前同様の職務権限を有していた同人に対し前同様の請託をし、その報酬として、

(八)  同年同月頃、同都府中市宮西町四丁目十五番地小林茂一郎方に於て、当時都議会議員として前同様の職務権限を有していた同人に対し前同様の請託をし、その報酬として、

(九)  同年同月頃、前記被告人中島方に於て、同被告人に対し前同様の請託をし、その報酬として

(十)  同年同月頃、前記被告人石島方に於て、同被告人に対し前同様の請託をし、その報酬として

各洋服生地一着分時価七千円相当を各供与し、

以てそれぞれ右被告人出口、同上野、竹林、小野、大村、佐々木、山口、岡田、松本、小林、被告人中島及び同石島の各職務に関して贈賄し

三  前記被告人小山、同内田及び同田村は共謀の上、被告人田村において、同年十月上旬頃、前記都庁内自民党控室附近に於て、被告人荒木に対し、本件議長選挙に際しては被告人小山を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者に選出した上、都議会に於て議長に当選せしめるよう、被告人荒木は勿論他の同党所属議員にも勧誘尽力せられたい旨の請託をし、その報酬等として現金三十万円を供与し以て被告人荒木の職務に関して贈賄し、

四、前記被告人小山及び同内田は共謀の上、被告人小山において同年十一月上旬頃、前記都庁内自民党控室に於て、被告人田村に対し、本件議長選挙に際しては被告人小山を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者に選出した上、都議会に於て議長に当選せしめるよう、被告人田村は勿論他の同党所属議員に勧誘尽力せられたい旨の請託をし、その報酬等として現金五十万円を供与し、以て被告人田村の職務に関して贈賄し

五、前記被告人小山及び同浦部は共謀の上、被告人浦部において同年同月下旬頃、前記都庁内自民党総会場に於て被告人中島に対し、本件議長選挙に際しては被告人小山を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者に選出した上、都議会に於て議長に当選せしめられいた旨の請託をし、その報酬として現金二十万円を供与し、以て被告人中島の職務に関して贈賄し

六、被告人上野は

1  同年八月下旬頃、同都足立区千住河原町五番地料亭琵琶湖に於て自己の主催する宮城野部屋力士激励会に、前記の通り本件議長選挙に当選したいと考えていた都議会議員加藤好雄(昭和四十年十月死亡)を招待した際、同人より、暗に本件議長選挙に際しては同人を自民党の候補者選定に於て同党の推す議長候補者に選出させた上、都議会に於て議長に当選せしめられたい旨の請託を受け、その報酬をも含む趣旨で供与されるものあでることの情を知りながら、祝儀名下に現金十万円を収受し

2  被告人小山より

(一) 前記二、2(一)記載の日時場所に於て同項記載の請託を受け、その報酬をも含む趣旨で供与されるものであることの情を知りながら、同項記載の現金十万円を収受し、

(二) 前記二、2(二)記載の日時場所に於て同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の洋服生地一着分を収受し、

3  前記一、2記載の日時場所に於て被告人藤森より同項記載の請託を受け、その報酬をも含む趣旨で供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金十万円を収受し、

以て自己の前記職務に関してそれぞれ収賄し

七、被告人出口は

1  被告人小山より

(一) 前記二、1(一)記載の日時場所に於て同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら、同項記載の現金二十万円を収受し、

(二) 前記二、1(二)記載の日時場所に於て同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の洋服生地一着分を収受し、

2  被告人藤森より

(一)前記一、8(一)記載の日時場所に於て同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら、同項記載の現金二十万円を収受し、

(二) 前記一、8(二)記載の日時場所に於て同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら、同項記載の現金五万円を収受し、

3  昭和四十年一月下旬頃、前記被告人出口方に於て、前記加藤好雄より前記六、1記載と同旨の請託を受け、その報酬として供与されるものとして供与されるものであることの情を知りながら現金二十万円を収受し、

以て自己の前記職務に関してそれぞれ収賄し

八、被告人荒木は前記三記載の日時場所に於て、被告人田村より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金三十万円を収受し、以て自己の前記職務に関して収賄し

九、被告人石島は

1  前記一、3記載の日時場所に於て被告人藤森より同項記載の請託を受け、その報酬をも含む趣旨で供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金十万円を収受し、

2  前記二、3(十)記載の日時場所に於て被告人小山より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の洋服生地一着分を収受し

以て自己の前記職務に関してそれぞれ収賄し

十、被告人町田は前記一、記載の日時場所に於て被告人藤森より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金二十万円を収受し、以て自己の前記職務に関して収賄し

十一、被告人森は前記一、5記載の日時場所に於て被告人藤森より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金二十万円を収受し、以て自己の前記職務に関して収賄し

十二、被告人斎藤は前記一、6記載の日時場所に於て被告人藤森より同項記載の請託を受け、その報酬をも含む趣旨で供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金十万円を収受し、以て自己の前記職務に関して収賄し

十三、被告人中島は、

1  前記一、7記載の日時場所に於て被告人藤森より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金二十万円を収受し、

2  前記五記載の日時場所に於て被告人浦部より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金二十万円を収受し、

3  前記二、3(九)記載の日時場所に於て被告人小山より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の洋服生地一着分(時価七千円相当)を収受し

以て自己の前記職務に関してそれぞれ収賄し

十四、被告人田村は前記四記載の日時場所に於て被告人小山より同項記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら同項記載の現金五十万円を収受し、以て自己の前記職務に関して収賄し

たものである。

第五本件の重要争点に対する判断

本件についての各被告人及び弁護人の法律上、事実上の主張は甚だ多岐に亘るが、以下そのうち最も重要と考えられる左記の点について、当裁判所の判断を示す。

被告人及び弁護人の多くは、「自民党の前記候補者選定の結果によつて、同党議員が都議会で投票すべき対象はその候補者に義務づけられると共に、同党が絶対多数を占める会派である関係上、その時点で事実上議長が決定されてしまうのであるから、被告人等は専ら候補者選定の結果に関心を抱いていたもので、都議会における投票の如きは全く考慮の外であつた。又、議長候補者選定のための投票行為は党員としての純然たる政党活動であつて都議会議員としての行動ではなく、議員としての職務権限とは無関係であるから、仮に同党の議長候補者選定に関して金品が授受されても、贈収賄罪が成立する余地はない」との趣旨を主張する。

しかし、前記第二の一に於て詳細に判示した通り、自民党の議長候補者選定は、自民党所属議員の投票を分散させないで同党に議長を確保するために行われるのであつて、議長就任を希望する者にとつては、その目的を達するために通過しなければならない関門であると共に、その結果によつて事実上議長が決定するといつても、都議会に於ける選挙を経ない以上は議長就任の目的が達せられないである。さすれば、自己を党の推す議長候補者に選出されたいとの請託には、必然的に議長候補者に選出された上はその結論に従い本会議での議長選挙で自己に投票されたいとの趣旨をも含むものであることは当然であり、両者をことさら分離して無関係のものと考えることは不合理である。勿論本件に於る立候補者は、いずれも候補者選定の結果に反してまで自己を支持することを求めていたとは証拠上認められず、党の推す議長候補者として選出せられた上議長に当選のコースを当然考えていたと認められるから、成程その主たる関心がまず前提たる候補者選定に向けられていたことは十分首肯できるところであるけれども、しかしその故にその請託には前記の如き両者の趣旨を含んでいないとすることは相当でない。

更に、本件候補者選定について考えてみると、その本質は、都議会議員の一部しかも都議会議員全体の過半数を超えるものが参集して、それら議員の属する会派において議長を確保するため、本会議における議長選挙の際、これら議員各自が議長として誰に投票するかを決定すること、即ち本会議における議長選挙という議員の職務権限行使の内容を決定するものであり、それが議員の右職務行為自体とまではいえないにしてもこれと極めて密接不可分の関係にあることは殆んど自明の理である。従つて候補者選定に関する請託のみをとり出して論じても、やはり刑法第百九十七条第一項後段にいう職務に関する請託に該るといわなければならない。右候補者選定が政党活動の一環として行われることは何等右の本質を左右するものではない。政党活動の自由はもとより尊重されなければならないが、政党活動であることの故を以て、公務員の廉潔を害する行為の隠れ簔とすることは許されない。

なおこの点に関し、被告人、弁護人の一部は、本件都議会自民党所属議員の母体ともいうべき自由民主党の党大会におけるいわゆる総裁公選と国会に於る首班指名との関係を本件議長候補者選定と議長選挙との関係に対比して云々するところがあるが、いわゆる総裁公選の実情について、世上噂にのぼる如く多額の金銭が乱れ飛んでいることが真実であるとすれば、誠に遺憾至極という外はないが、かかる事実の存するからといつて、当裁判所の前記判断を左右することはできない。

第七法令の適用

一、判示第三摘示の各事実を法律に照らすと、

1  被告人藤森の各所為はいずれも刑法第百九十八条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項に該当するので各所定刑中懲役刑を選択し、右は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により犯情最も重い一、1の罪の刑に併合加重した刑期の範囲内で

2  被告人出口、同中島、同上野及び同石島の各所為は、それぞれいずれも同法第百九十七条第一項後段に該当し、右はいずれも同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により、被告人出口につき犯情最も重いと認められる七、2、(一)の、同中島につき同じく十三、2の、同上野につき同じく六、3の、同石島につき犯情の重い九、1の各罪の刑にそれぞれ併合加重した刑期の範囲内で

3  被告人浦部の所為は同法第六十条、第百九十八条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で

4  被告人町田、同森、同斎藤及び同荒木の各所為はいずれも刑法第百九十七条第一項後段に該当するので各所定刑期の範囲内で

5  被告人小山の各所為中二はいずれも同法第百九十八条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項に、三、四及び五はいずれも刑法第六十条、第百九十八条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項に各該当するので、各所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により犯情最も重い四の罪の刑に併合加重した刑期の範囲内で

6  被告人内田の各所為はいずれも同法第六十条、第百九十八条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項に該当するので、各所定刑中懲役刑を選択し、右は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により重い四の罪の刑に併合加重した刑期の範囲内で

7  被告人田村の所為中、三は同法第六十条、第百九十八条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項に、十四は刑法第百九十七条第一項後段に各該当するので前者につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文、第十条により重い後者の罪の刑に併合加重した刑期の範囲内で

各被告人をそれぞれ量刑処断すべきものである。

よつて本件の情状について按ずると、検察官が論告において各被告人全体に共通する情状として、また各被告人の個別の情状として主張したところは、当裁判所においても、おおむねこれを肯認することができる。

しかしその反面、本件検挙を契機に世論の非難をあび遂に都議会解散の事態を生じ、被告人全員が議席を失い現在においても議席を有せず、被告人らの社会的地位に鑑みれば、本件検挙、勾留、審理によりいずれも既に相当な色々の制裁を蒙つていると認めることができる。又被告人等はいずれも二回以上都議会議員に当選の経歴を有し、相当期間に亘りそれなりの立場で都政に寄与して来たものであることも無視できないところである。

その他、個々の被告人の授受金額、過去の経歴、年令、健康状態、改悛の程度一切の事情を考慮し、量刑すべきである。

よつて、各被告人に対し、前記各刑期の範囲内で、主文第一項掲記の通り刑を量定し、なお、情状に鑑み刑法第二十五条第一項を適用して主文第二項掲記のとおりそれぞれ前記刑の執行を猶予するのが相当であると認める。(以下略)(足立勝義 諸富吉嗣 加藤隆一郎)

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